【これさえ読めばOK!】タイヤル族の特徴がまるわかり

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泰雅族(以下、タイヤル族)の「タイヤル」はタイヤル語で「人」という意味。伝説では太陽を射落とした部族だともいわれています。台湾原住民族の中で3番目の人口を有しており、台湾での分布範囲が最も広い民族です。神秘のベールに包まれた彼らの文化と歴史を一緒に覗いてみましょう!

タイヤル族の基礎知識

まずはタイヤル族の基本データから見ていきましょう。

民族名泰雅族(タイヤルまたはアタイヤル)
英語表記TayalまたいはAtayal
人口9万3,345人 ※2021年時点
言語タイヤル語、中国語、日本語など
社会構成父系社会
宗教祖霊信仰、キリスト教など
分布地域台湾中部・北部の山地(新竹県、南投県、宜蘭県)
参照元:台湾原住民族委員会より

別の記事でも取り上げ予定ですが、太魯閣族(タロコ)と賽德克族(セデック)はタイヤル族の親戚にあたります。
タロコ族、セデック族についても別の記事で取り上げる予定です。

石から生まれた民族!?

タイヤル族の起源について、伝説が残されています。

むかしむかし、ある村の大きな石(岩)が突然破裂し、男と女がその岩から出てきました。彼らがタイヤル族の祖先とされ、地に降り立ちそれぞれ部落(村)を作られた。

原住民族委員会より

ニッポン昔話の桃から生まれた桃太郎や、西遊記の岩から生まれた孫悟空と話が似ていますね。

タイヤル族は大きく2つのグループに分けられていると考えられています。

  • 賽考列克(セコレク派)
  • 澤敖列兩(セオール派)

グループごとに伝説で出てきた大きな石(岩)の起源地が異なります。セコレク派は南投県仁愛郷の村にある岩(Piasebukan)を起源地とし、一方でセオール派は新竹県の大覇尖山(Papakwaqa)を起源地としています。

仁愛郷の村にある岩(Piasebukan)
新竹県の大覇尖山(Papakwaqa)

タイヤル族に限らず、他の原住民族も起源に関する神話や伝説が語り継がれています。各民族紹介の記事の中で合わせて紹介できればと思っています。

射日神話

INDIGENIOUS SIGHT『從前從前 我們也曾射下好多太陽』より

タイヤル族にはもう1つ伝説が語り継がれているので、紹介します。

射日神話

かつて、世界には太陽が2つあり、月はなかった。

日中は灼熱の大地と化し、生きとし生けるものたちにとって過酷な環境だった。

限界を迎えた村の人々は集まり話し合った。

「誰か太陽を射ち落としてくれる者はいないかね?」

そこで3人の勇者が手を挙げた。

弓と刀を持ち、そして勇者それぞれの赤ん坊を背負って出発した。

太陽への道のりは遠く険しく、東へ東へと歩き続けた。

しかし、太陽にたどり着く前に3人の勇者は老い果て、亡くなった。

成長した勇者の子どもたちは父親の意思を受け継ぎ、東へ進む。

ようやく太陽のもとにたどり着き、弓を構えた。

太陽が地平線から顔を出した瞬間、矢を放ち2つのうち1つの太陽に命中した。

射落とされた太陽は大量出血し、3人のうち1人に直撃。まもなく死んでしまった。

落ちた太陽は月に変わり、吹き出た血は星となった。

村に帰ったとき、2人はすっかり白髪姿だった。

まさかラスボスを倒しに子どもまで連れて行くなんて、まるでRPG。。
1/3で不慮の死を遂げた勇者、、、かわいそすぎる(ぴえん)

なお、射日神話はタイヤル族以外の民族にも伝わっており、色んなパターンがあります。中国版もあるため上記の話はあくまで一例となります。

祖霊信仰

現在、キリスト教を信仰している原住民が多いと聞きます。しかし、キリスト教が伝来する前は祖霊信仰それいしんこう(祖先崇拝と同義)がメインでした。

祖霊信仰は一般的に以下のように定義されています。

死んだ先祖から生きている子孫たちに影響することを信じ、あるいは先祖から何らかのものを貰えるという信仰のこと。

Wikipediaより

タイヤル族では、祖霊は人の一生の禍福かふく(災いと幸せ)を決める力を持っているとされ、祖霊をまつることで一族全員の安泰と五穀豊穣をもたらしてくれると信じられています。
毎年、祖霊を祀る行事「祖霊祭」が行われています。祖霊祭については、このあとご紹介します。

このことからも彼らは祖先の魂を神聖視し、とても重んじていることが伝わってきます。
つまり、彼らの考え方、慣習、教育、規律などはすべて祖先の教えが起点となっていることは誰が見ても明らかです。

タイヤル族では、祖先の教えを「gaga(ガガ)」と呼んでいます。
「gaga」は守ることが彼らにとって最優先事項だったのです。正直、定義することが非常に難しい概念なのですが、1つのコミュニティと考えていただくと理解しやすいかもしれません。当然、部落ごとに「gaga」の考え方も異なります。

「gaga」を守ることで身体の健康や豊作を享受できるとされ、もし一人でも「gaga」に反した場合、コミュニティメンバー全員に連帯責任のようなかたちで災いが訪れると信じられていました。

生活

祖霊の規範「gaga」を守り、狩猟や焼き畑農耕、織物づくりなどを生業とした伝統的な生活をおくっていました。現在は農業中心の生活をおくっています。

主な農作物としては、

  • お米、おかぼ、キビ
  • 桃、梨
  • 高冷地野菜
  • キノコ類
  • 生姜 など

もともと狩猟民族だったため、農耕の知識がない中で今の農業基盤を築き上げたそう。基本的に無農薬で現地で振舞われる料理はどれも絶品。

彼らが作るあわ酒も人気です。スパークリングや、非発泡酒などの種類があります。どんな味わいかというと、微炭酸の白ワインのような、マッコリのような、口当たり良さ、だとか。今度、台湾訪れたとき、ぜひ試飲して皆さんに感想をシェアしたいと思います!

粟酒は祭事などの行事、あるいはゲストなどをもてなすときにも登場するそうです。また兄弟姉妹、親友、家族の間で頬を付けて飲む場合があるらしいです。これは関係がとても親密であることを示しいるのだそう。にしてもこの密着度合、絆の強さを感じます。

 フォトグラファー 葛西亜里沙さん なかなか難易度が高い、台湾・タイヤル族の儀式より

トビウオという村には独自の言語がある

タイヤル族の伝統的母語はタイヤル語になります。漢民族の同化が進んだり、日本統治時代の日本語教育のもと、タイヤル語、中国語、日本語を話すバイリンガル、トリリンガルの方が多くいます。

そんなバックグラウンドもあり、今でも日本語が共通語のタイヤル族の集落もあるそうです。
中にはタイヤル語と日本語がミックスした言語が話されている特異な部落があるそうなので、少し紹介させてください。

宜蘭県東岳村という部落で現地では「トビヨ」と呼んでいます。飛魚トビウオがよく獲れる村だったことに由来しています。

日本統治時代、当時の台湾総督府の意向で集団移住施策が実施されました。
山に住んでいたタイヤル族は山をおろされて、セデック人と一緒に住むことになりました。当然、民族間(親戚同士ではありますが)で言語が通じなかったので、日本語が共通言語として使われるようになりました。次第にタイヤル語と、日本語が徐々に混じり合い、新しい言葉が生まれた。

他のタイヤル族とも違う第三の言語、これを「宜蘭クレオール」と言語学界では呼ばれています。

クレオールは、意思疎通できない異なる言語圏の間でコミュニケーションを行う際に自然に作り上げられた言葉を話す人々のこと。

実際に宜蘭クレオールを話している様子は以下の動画からご覧になれます。

外界からの圧力により皮肉にも進化を遂げた宜蘭クレオール。しかし、今では宜蘭クレオールを自身のアイデンティティの重要な一部だと考えています。後世にどう伝承していくのか、その試行錯誤しながら歩み続けているのです。

アート&カルチャー

さて、タイヤル族の基礎を押さえることができました。次に彼らのアートとカルチャーを除いてみましょう!

イレズミは民族の誇りと証

紋面もんめん(ptasan)と呼ばれ男女ともに成人すると顔にイレズミを入れる習慣がありました。

花蓮県政府文化局より

成人とは年齢のことではなく、以下のような通過儀礼をクリアすることでした。

  • 男性→狩猟あるいは首狩り後
  • 女性→織物技術を習得時

言い方を変えれば、前出の「gaga」へ入会するには、上記のような通過儀礼をクリアする必要がありました。

当時、紋面はファッション的な見た目の美しさや、魔除けとしての効果があると考えられていました。宗教的な意味合いでも、死んだ後の世界で祖先の霊がその人がタイヤル族の子孫であったか見分けるためにイレズミを目印にしていたと考えられていました。

イレズミを入れる箇所は、顔、胸、腹部、手、足だったそうですが、中でも顔に入れることが最重要だったそうです。

しかし日本統治時代に禁止され、今ではこの習慣はなくなりました。

台湾原住民族イチの伝統工芸

タイヤル族は台湾原住民族の中で最も織物技術に優れているといわれています。タイヤル族の女性は織物技術のレベルによって嫁ぎ先が決まるくらい重要な技術だったそうです。

織物に使う糸は地元に生えている原材料の苧麻(カラムシ)から自前で作っています。

苧麻(カラムシ)イラクサ科アジアに広く分布している
苧麻の茎から取り出した繊維から巻き取った糸

さて、タイヤル族の織物の特徴は、なんといっても鮮やかな色使い。赤と白をベースにした「ひし形模様」はご先祖様の目を表しており、魔除けの効果があるのだとか。

織物は上着、首飾り、バンダナなど色々な用途で使われていました。

https://museums.moc.gov.tw/MusData/Detail?museumsId=09d66410-672b-4e4f-a4a2-d0919bd0ec51

ちなみに星野リゾートが経営している星のやグーグァンで織物体験ができます!気になる方はぜひチェックしてみてください。

祖霊祭

祖霊祭についても少しご紹介したいと思います。毎年8~10月に開催され、基本的にはお米の収穫が終わった後にとり行われます。

祖霊祭は単なるお祭りではなく、とても神聖な行事なのです。

部落ごとに作法に違いがあるのですが、ある部落の例では以下のように行われています。

夜明け~早朝に起床。伝統衣装に着替えて広場に集合
全員揃ったら、皆で祖先の墓参りに向かう
墓参り後、各家庭で食事
食事を終えたら、頭目(村の長老)を囲って集会。餅つき、伝統舞踊

実際の祖霊祭は以下の動画をご覧ください。

祖霊祭は奥深いので、また別に特集記事を書きたいと思います!

さいごに

タイヤル族の世界観を感じていただけたでしょうか。

台湾の烏來にはタイヤル族が多く住んでおり、身近に触れ合うことができます。もし、行かれる機会がありましたら、烏來泰雅民族博物館に行ってみることをオススメします!

烏來泰雅民族博物館

営業時間:平日9:30~17:00、休日9:30~18:00

入場料:無料

アクセス:新北市烏来区烏来街12-1
※台北駅からバスで約1時間、MRTで約30~40分

公式HP:https://www.atayal.ntpc.gov.tw/