台湾東部最大の港町「成功」ってどんなところ?

Photo by 冠愷 童

台湾東部は豊かな自然と原住民文化が色濃く残っており、台湾人にとっても人気の観光地だ。

台東空港から車で北上すると窓からコバルトブルーに輝く海が目の前に広がる。走ること約1時間、台湾東部最大の漁港を有する成功鎮(鎮は日本の町に相当)にたどり着く。阿美族(以下、アミ族)が移住してから農業が中心だった町は、日本統治時代に港町へと変貌を遂げた。今回紹介したいのは台湾屈指の観光スポット”成功”だ。
紹介する理由については、「筆者が個人的に思い入れのある地域だから」とだけいっておこう。
その件は後述するとして、さっそく成功の魅力を凝縮してお伝えしたい。

成功鎮の基本情報

かつては”蔴荖漏ラウラウ”(荒廃した地)と呼ばれていた。そこにアミ族などの原住民が入植し農業を中心に定住し始めた。日本統治時代、輸送船の重要な停泊港として開発が進み”新港”に改名。戦後、更に”成功”に改名した。現在は漁業が盛んな港町となっている。
台東空港から車(もしくはバス)で約1時間で行くことができ、比較的アクセスがいい。人口約14,000人、アミ族が5割以上を占めており成功はいくつかの集落で形成されている。日本伝来のカジキ漁を今も行っており、台湾人の中で「成功=カジキ」と思う人も少なくないだろう。
人気の観光スポットとしては成功漁港、三仙台、 比西里岸 などがある。筆者も現地に足を運んだが活気に溢れた人々が多い印象で、観光客に対してとても優しい。「漁」「海」「芸」とコンテンツが充実しており台湾東部で人気を誇るエリアだ。

台湾のフィッシャーマンズワーフ

Photo by Mark Tindale

重複するが、成功には台東県東部最大の漁港がある。太平洋に面した沖合は親潮と黒潮がちょうどぶつかる潮目にあたり豊富な水産資源が眠っている。獲れる魚はカツオ、マグロ、カジキ、シイラなど刺身にしたらどれもおいしいものばかりだ。カジキが特に有名なのはその漁法に理由がある。あれこれ説明する前に一度動画を見てもらいたい。

カジキ漁の様子

日本統治時代に伝わった漁法で、現地では突きん棒漁(鏢旗魚)と呼ばれている。観てのとおり特徴は船首に人が立ち突きん棒(もり)でカジキを仕留めるというシンプルな漁法。荒波の中、気性が荒くしかも時速100km以上で泳ぐカジキをひと突きで捉える達人芸に感服した。獲れたカジキは傷の少なさと捕獲して瞬間冷凍することで鮮度が保てることから高値で取引される。

競りの様子

Photo by Ken Marshall
シイラもいるよ Photo by fernandochen799

競りはだいたい午後に行われ観光客の見学にも寛容なので、ぜひ活気づいた雰囲気を感じてほしい。筆者は成功を台湾のフィッシャーマンズワーフと思っている。

成功漁港へのアクセス

  • 台東からのルート
    台東バスターミナル(臺東轉運站)から台湾好行バス東部海岸線で「成功」下車、徒歩10分 ※バスの時刻表はこちら
    所要時間:約2時間
  • 花蓮からのルート
    花蓮バスターミナル(花蓮轉運站)から台東行きのバスで「成功總站」下車、徒歩10分 
    所要時間:約2時間30分

刺身を食べるならこのお店

獲れたての魚を食べたい方向けにいくつかお店を紹介したいと思う。どこも美味しいので予定に合わせてぜひ行ってみほしい。

※カジキは現地で「旗魚(チーユー)」と呼ばれている。「生魚片」はお刺身のこと。

地の利を生かした店主の徹底したこだわり『旗遇海味 Meet Marlin』

まず紹介したいのは『旗遇海味 Meet Marlin』。漁港から最も近い場所にあり、現地でも人気のお店だ。「鮮度命」を掲げこの場所を選び、店主自ら市場へ競りに参加する。ガラス張りの店内で漁港を眺めながら海の幸を楽しむことができる。カジキ目当てなら9~10月頃がおすすめ。

店主の林昱濱さんと奥さん

夫が競って妻が捌くスタイル 公式Facebookより

お刺身セット

中央がカジキ、肉厚で食べ応えがある 公式Facebookより

夜の店内

店主のこだわりデザイン Photo by Lynn Su

旗遇海味 Meet Marlin
住所:台東縣成功鎮港邊路19之8號
営業時間:10:00-20:00
HP:http://www.meetmarlin.com/
Facebook:https://www.facebook.com/meetmarlin

成功の老舗店『佳濱成功旗魚』

先ほど紹介した旗遇海味の店主の先代が開いた老舗店『佳濱成功旗魚』。獲れたての魚を「マイナス50度の急速冷凍技術」で最高鮮度の状態に保ち客を迎える。店内は個室、テーブル席、イートインスペースが用意されておりTPOに合わせて利用できる。

店内

2階テーブル席 公式Facebookより

併設の旗魚咖啡 Makaira Coffee

刺身とコーヒーとはなんとも斬新な組み合わせだ 公式Facebookより

佳濱成功旗魚
住所:台東縣成功鎮大同路65-1號
営業時間:11:00~14:30、17:00~20:00
Facebook:https://www.facebook.com/ChengGongQiYu/

朝から刺身を食べたいなら『丸春号生魚片』

早朝に刺身が食べたくなった経験はないだろうか。潮風と海の香りに包まれた成功にいると尚更その衝動に駆られるかもしれない。そんな時は『丸春号生魚片』に行ってみはいかがだろうか。屋台スタイルで刺身を食べられるのは台湾ならでは。早朝からいいスタートダッシュが切れそうだ。

慣れた手つきで刺身を引いていく 旅遊圖中より
盛り付けもやはり屋台スタイル 旅遊圖中より

丸春号生魚片
住所:台東縣成功鎮中華路123-151號
営業時間:7:30~19:00
Facebook:https://www.facebook.com/ChengGongQiYu/

台湾屈指の景勝地『三仙台』

Photo by 伊森

台湾屈指の景勝地『三仙台』。離れ小島とサンゴ礁海岸が広がっており、毎年多くの人でにぎわっている。三仙台の名の由来は、八仙(日本でいう七福神)のうち3仙人がこの島で休んだという伝説から「三仙台」といわれている。当初、干潮時にしか小島に渡れなかったが八拱橋(アーチ状の橋)が設置されいつでも渡れるようになった。橋には8つのうねりがあり龍を想起させる。台湾東海岸のランドマークとなった。

サンセットビューも素晴らしい Photo by 懷生 林
中にはベストショットを狙うガチ勢もいる Photo by 宗賢 李

壮観な景色はいわずもがな、三仙台は長い間手つかずだったためユニークな生態系が残されており、自然保護地区にも指定されている。アダン、タイワンデーツ、モンパノキ、ハマナタマメ等の希少な海岸植物、サンゴ礁や熱帯魚を観測することができる。トレッキング、ダイビング、マリンスポーツ、ホエールウォッチングなど様々なアクティビティが用意されている。

三仙台へのアクセス
台東バスターミナル(臺東轉運站)から台湾好行バス東部海岸線で「三仙台遊憩区バス停」下車 ※バスの時刻表はこちら
所要時間:約2時間

文化継承をアートで乗り越える『比西里岸』のいま

基本的に三仙台とセットで訪れるのが定番 Photo by 伊森

比西里岸(Pisirian)は、三仙台の北側約1kmにある小さな集落だ。”Pisirian”はアミ語で”ヤギを飼う地”という意味。かつてここでヤギを放牧しながら人々は生活を営んでいた。時代が変わり生活様式も変容する中で、比西里岸も地方特有の人口流出問題に直面する。そこで村の再興を図るべく三仙社区発展協会を創設、様々な取り組みを開始。比西里岸は今やアート村として知名度が高い。どんな作品があるのか見てみよう。

ヤギアート

前述の通り比西里岸にはかつてヤギの群れがいたが、今はいない。しかし、海岸に向かって歩いているとヤギ群のインスタレーションが旅行者を迎えてくれる。

海岸に置かれたヤギ群のインスタレーション。鹿にも見えなくはないが… Photo by a-dunn

村の再興に賛同した芸術家・ボランティアが集まり漂流木でヤギのインスタレーションを次々に創作。かつての村の姿をアートで再現するユニークな取り組みだ。比西里岸に来たら必ずといってもいいほど訪れるべき大人気スポット。

三仙台を見つめるボスヤギ Photo by atnitsuj

幾米園区

村を歩いていると家や壁など所々に絵が描かれていることに気づく。そこは『幾米園区』と呼ばれるエリアだ。

『幾米園区』は台湾の著名な絵本作家ジミー・リャオ(幾米)にちなんでいる。彼が比西里岸を訪れた際、ヤギアートに感動したという。漂流木アートにインスパイアされ、彼の絵本作品『森の中の秘密』に登場するうさぎを漂流木アートで再現することを提案。コラボが実現した。

『森の中の秘密』に登場するうさぎと女の子 Photo by sappheiros

うさぎの作品を皮切りにジミーの作品キャラクターを地元の人が家や壁に描き始めた。同エリアを散策する際は、イラストを目印に周るとよい。

地元の人によって描かれた壁絵

Photo by Roger W.
Photo by 黃 至正
絵本作家の幾米(ジミー)さん

PawPaw鼓楽団

hoto by TEIA

少子高齢化、若年層の人口流出、世代間のギャップ などで文化継承に危機感を覚えた三仙社区発展協会理事長の陳春妹さんは、若年層にとっても魅力ある村づくりを志す。音楽分野のアプローチから文化継承に取り組むプロジェクト『PawPaw鼓楽団』は成功を収めている。今では海外公演もすることがある楽団の特徴は「PawPaw鼓」と呼ばれるアフリカ太鼓のような楽器で演奏する。「PawPaw鼓」の「PawPaw」はアミ語で浮いたもの意味。実際に太鼓は漁で使われている浮き球をリサイクルしている。奏でられる太鼓の音からどこか広大な海と山の声が混ざり合っているように聴こえてくる。

浮き球 Photo by Adryan RA
浮き球から作られたPawPaw鼓 微笑台灣より

実際の演奏も見てほしい

比西里岸へのアクセス
台東バスターミナル(臺東轉運站)から台湾好行バス東部海岸線で「三仙台遊憩区バス停」下車 ※バスの時刻表はこちら
所要時間:約2時間

さいごに

今回は情報量は控えめに紹介させてもらった。個人的な思い入れの話をここですると、筆者の曽祖父と曾祖母が成功出身なのである。昨年渡台した際、短期ではあったが立ち寄らせてもらった。成功はとても良い町である。本記事で紹介した成功の魅力は氷山の一角に過ぎず、記事を書きながら不完全燃焼感がある。しかしながら、本記事を読んで少しでもこの町に興味を持っていただけなら本望である。

今後は現地取材などを通してローカルでディープなところをぜひ読者にお伝えできればと思う。