今回は【冠婚葬祭編】ということで、台湾原住民族の葬儀について紹介します。
私事ですが、先日、上海の祖母が他界しました。
哀しみの中、このことををきっかけに何かできないかと考え、この記事を書くことに決めました。
少しダークで多分にスピリチュアルな内容となりますが、「異文化理解」という文脈で読んでいただければと思っています。
それでは、いきましょう!
はじめに
タイヤル族の記事でも紹介しましたが、基本的に台湾原住民族は祖霊崇拝をしています。
気になる方は、こちらも読んでみてください。
台湾原住民族は16グループいますが、今回は以下の民族をピックアップして紹介します。
- 排灣族(以下、パイワン族)
- 卑南族(以下、プユマ族)
- 阿美族(以下、アミ族)
※同じ民族でも部落ごとに段取りや方式が異なる場合があります
今回紹介するのは、あくまで伝統的な葬儀です。時代が移り変わり、原住民族の間でも仏教、道教、キリスト教など宗教が多様化しました。すべての民族で伝統的な葬儀が行われているわけではないことを、予めご理解いただければと思います。
パイワン族
人は死後、魂が善と悪に別れるとパイワン族では考えられています。
自然死(老衰や病死など)を遂げた死者の魂は善霊となり、大武山(聖山)に帰り、祖霊になると信じられています。
一方で、不慮の死(自殺、事故など)を遂げた死者の魂は悪霊となります。現世にとどまりしばらく幽霊として活動した後、再び生まれ変わるために太陽に帰るといわれています。
善霊 | 悪霊 | |
---|---|---|
ステージ1 | 自然死 | 不慮の死 |
ステージ2 | 大武山に帰る | 太陽に帰る |
ステージ3 | 祖霊になる | 人間に転生 |
葬儀の流れ
伝統的な葬儀は以下の流れで行われます。
亡くなった方(以下、故人)の遺体を手足を折り曲げた体勢で棺に入れます。
これは屈葬と呼ばれ、基本的に台湾原住民族はこの方式を取っています。
葬儀に参加するよう連絡をします。
故人に別れを告げます。
善霊は家の中で埋葬し、悪霊は屋外で埋葬します。※日本統治時代に家の中で埋葬することは禁じられた
遺族の家に戻ります。
死者の魂が家の中に戻ってこられないよう、病気や災いをもたらさないよう、浄化用の水で手と門戸を清めます。
家の前に竹の枝を立てて追悼します。
故人に供物をささげます
葬儀を終えてから、だいたい7日間後。遺族のうち男性陣は山へ狩りに行きます。狩りから戻ってきたら、家の前の竹をすべて取って、喪服とともに燃やします。
満月除霊祭
こちらも部落によるのですが、満月除霊祭というお祓いの儀式を行います。
満月は浄化の日を意味します。
満月の次の日、喪中の遺族は米酒のお餅を作ります。シャーマン(日本でいう巫女さん)を招待し、遺族を部族の外に集めます。シャーマンにお祓いをしてもらった後、遺族はそれぞれの衣服をナイフで切って道端に捨てることで、霊魂との関係を断ち切ります。
喪中期間は?
喪中期間ですが、遺族は約100日間、兄弟・いとこは約1ヶ月間、部落の人々は約5日間だそうです。
※部落ごとに異なる場合があります。
プユマ族
続いて、プユマ族を紹介します。
葬儀の流れ
伝統的な葬儀は以下の流れで行われます。
部落の男性は家の中で墓穴を掘ります。掘れたら、年長者が穴に 3 つの瑠璃色の石を、故人のそばに置きます。故人の服やアクセサリーも墓に入れられます。男性であれば腰刀を置き、女性であれば鍬を入れます。
ご遺体の頭を西に向け、上向きに置きます。故人は家族や近親者によって埋葬されます。
埋葬の翌日、シャーマンを家に呼び、(家で使っていた)火と水の交換を行います。
この行為は、悲しみからの解放と新生活を始まりを意味します。
身体を清めます。
稲作が取れるよう、田んぼのお清め作業を行います。
埋葬から5日後、遺族の男性陣が集まり山へ狩りに行きます。
これで除喪したことになります。
遺族はシャーマン同伴のもと、故人の家に向かいます。檳榔と瑠璃色の石を供物としてささげた後、通常の生活に戻ります。
パイワン族に比べると、工程が少ないように見えますね。
プユマ族のアクセサリーは、、
聖者の行進!?「除喪祭」
プユマ族では、遺族の悲しみ・痛み・不幸=部落の悲しみ・痛み・不幸 と捉えます。
遺族の悲しみを和らげ、不幸を取り除くために、毎年元旦に「除喪祭」という儀式が行われます。
年長者が部落の若いメンバーを率いて、葬儀を終えた遺族の家を一軒一軒回る様子はまるで聖者の行進のよう。
年長者が家の中で厄祓いと祈祷を行い、若者が弔いの歌をうたい、独特の舞を通して哀悼の意を表します。
厳粛且つ敬虔なムードの中で行われているため、見てるこちら側もどこか緊張してしまいます。
▼ 除喪祭の様子はこちら
アミ族
さいごにアミ族の葬儀を簡単に紹介します。(※ある部落の例)
葬儀の流れ
遺族は故人の身体を洗い清め、身支度を整え、死化粧を施します。(映画『おくりびと』のようなイメージ)
その後、親戚や友人に葬儀に出席するよう連絡をします。
埋葬は亡くなった日、または翌日に屋外で行われます。
墓は家の北側にたてられることが多く、埋葬後は土をお墓に敷き詰め、小石を円形に並べていきます。土が固まったらば、墓の周りを踏むことは禁じられます。
葬儀が終わると、参加者に対して遺族から感謝の贈り物を渡します。
埋葬が完了すると、同じ日にシャーマンの主宰する送霊祭が行われます。
送霊後2日目に、シャーマンは葬式を手伝った参加者の穢れを祓います。
その日の晩、一族全員が集まり、シャーマンは死者への供物として、バナナの葉、餅、粟酒、檳榔を捧げます。
回霊(送った霊の魂が返ってくること)2日目に、釣りをします。遺族代表の男性は年長者と川へ釣りに行きます。釣れた魚は2つに分けられ、片方は川で一緒に食べます。もう片方は葬儀場に持ち帰られ、親戚や友人にふるまいます。
▼ 実際の様子はこちら
ソウルフルバラードで魂の救済を
葬儀のバラードを歌うことは、アミ族の葬式文化儀式の伝統です。
バラードは 3 つの形式があり、TPOに応じて歌われます。
ミフカヤイ (Mifukayay) | 葬儀が終わった日の午後、故人の生涯、親戚、友人、部族でやったことなどを物語調で歌います。 |
ミラカタイ(Mirakatay ) | 葬儀の翌朝、故人の職場 (仕事場や菜園など) を訪れ、職場と故人とのつながりを歌います。同時に葬儀が無事に完了したことを知らせます。 |
パオリック(Pa’olic) | 喪中の家族は豊年祭(1年で最大級のお祭り)に参加できない。豊年祭の最終日にパオリックを歌ってもらうことで、家族全員が祭りに参加できるようになります。 |
ミフカヤイ(Mifukayay)は、即興で歌詞を考えて歌うため超高難易度。遺族の悲しみや想いを汲み取り、それにマッチした言葉を選ぶの技術は相当な経験を積む必要があるようです。
このバラードは2020年に台湾の無形文化遺産に登録されたました。
▼ 実際に歌っている様子
さいごに
今回は、3つの民族の葬儀について紹介しました。
新しい発見、気づきなどはありましたか??
プユマ族のアクセサリーといっしょに埋葬する点は、日本の古墳時代の埋葬と似ていますよね。もしかしたら、オーストロネシア語族という同じルーツが関係しているかもとか思っちゃったりしました。
どの国でも共通の課題かもしれませんが、伝統文化の継承問題はついてまわるもの。
漢化、日本統治時代などの影響で宗教が多様化し、現在、伝統的な葬儀を取り行なっている部落はむかしに比べ少なくなっているそうです。
たとえば、アミ族で紹介したバラードの歌い手の数は年々減少し、いわゆる後継者問題に直面しています。
それでも後世に残したいと願う気持ちや努力している彼らを目の前に、何か協力したいと心ばかしに思うのです。
ngiha’ Magazine(ニハマガジン)では、台湾原住民族について情報発信しています。
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